Ridilover(リディラバ)社会課題をみんなのものに

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マルイグループユニオンが踏み出した組合員の市場価値を高めるための新たな一歩 ー「個々人だけでなく、企業の成長にもつながる」

#導入事例

マルイグループユニオンが踏み出した組合員の市場価値を高めるための新たな一歩 ー「個々人だけでなく、企業の成長にもつながる」

野球に興味を持つきっかけとして『ルールブックを読んだから』という人はおそらくいないじゃないですか。

バットを振ってみたり、ボールを投げてみたり、あるいは野球場に足を運んでみたり、何かしら自分自身が一歩を踏み出し、感じることで、初めて興味が生まれるんだと思います。

そう語るのは、企業人が社会課題へ関心を持ち、それぞれの関わり方を考える「社会課題体感ツアー」を主催するマルイグループユニオン(以下、MGU)の金田さん。

金田さんに、企業人が社会に対して感度を高めることの意義と、その試行錯誤の軌跡をお聞きしました。

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「社会への感度の高い人材」づくりが、1人ひとりの幸せにつながる

清水:MGUさんとは、2019年5月に出会って以来、フィールドアカデミーや社会課題体感ツアー(オンライン)などを通じて、リディラバが目指している「社会の無関心の打破」を企業組織の中から引き起こすべく、様々なアプローチでご一緒させていただいています。

そもそも「組織の無関心を打破すること」にどのような意義があるのか、金田さんの考えをお聞かせいただけますか?

金田:一言でいうと「組合員1人ひとりが市場価値を高めて、どこでも働ける人になり、幸せになるため」ですね。

労働組合のミッションは「労働条件を上げること」がイメージされがちです。もちろんそれも大事な仕事です。

一方で、ライフスタイルが劇的に変わっていくこれからの社会を見据えると、企業に所属する人たち1人ひとりが成長して、市場価値を高めることで、必ずしも自組織に居続けなくても、各々が望むキャリアやライフスタイルを得られる状態をつくる、そういうサポートも重要ではないかと思っています。

では、これからの社会人にとって「市場価値を高める」とは、どういう力を磨くことか?

私は「社会で起きている事象に関心を持って、自分なりの課題感を起点としてアクションする力」だと確信しています。

私自身もリディラバの社会課題プログラムに参加して、誰も答えがわからない世界に放り込まれ、自分なりに関心を持って目的を見出し、課題の複雑さに面食らいながらも、ゼロベースで丁寧に周囲と対話を重ねる経験をしました。

この一連の経験は、ビジネスパーソンとして生きていく上で間違いなく必要な経験だったと感じています。

同時に「社会に関心を持つ」「自分の課題感を起点にアクションする」この2つの力は、「答えのない世界」で何かを成し遂げるためには、必要な力であるにもかかわらず、実は多くの企業で、自発的に育める環境があまりないことにも気がつきました。

だからこそ、これらの力を持った人材は、これからの労働市場・社会において必要なのではないかと考えています。

清水:社会課題かどうかに関係なく「世の中の事象に関心を持つ」ことがこれからのビジネスパーソンとして大切なんだ、ということだと思います。この考えは、組織にすぐ受け入れられたのでしょうか?

金田:実は、組織内で組合員にアンケートを取った時に「社会課題解決に取り組みたい」という声がとても多かったんです。

しかし社会課題と一口にいっても、そもそも世の中にどのような社会課題が存在して、それらに自分が企業人として、あるいは一個人としてどのように関われば良いのか、私たちには全くわからないんですよね。

結果、「関心は高いのに行動していない」という非常にもったいない層が社内に多くいる状況でした。

そのような状況であれば、私たち労働組合が「組合員」と「実際に起きている社会課題」のハブになって、世の中の様々なイシューに触れる機会を作ることで、1人ひとりが自発的に”社会”と”自分”との関係を考えるきっかけを作るポテンシャルがあると思ったんです。

それは単に個々人のライフスタイルに寄り添うということだけでなく、社会への感度を高めて、事業をアップデートする原動力にもなり得ますよね。

つまり、社員が社会課題に触れることは、個々人だけでなく、企業の成長にもつながるはずなんです。

だから、言ってみれば、風土として「社会課題を解決したい」という気運があったからやれているとも言えますし、加えて組織としてもメリットがある、やる価値がある、とも言えると思います。

リディラバと二人三脚でつくりあげた1つの解「社会課題体感オンラインツアー」

清水:そもそも「社会課題に関心がある組織風土」が素晴らしいと思うのですが、それは経営層が「社会貢献」を経営方針として明確に打ち出していることも関係しているのでしょうか?

金田:それはあると思います。ただ、どれほど関心が高くても、実際何をすれば良いのかはわからない。

実はこれ、弊組織に限った話ではなくて、どの企業もみんな困っていることなんですよね。

「社会の事象にもっと関心を持って自発的に行動ほしい・・・でもどうすれば良いかわからない」という他社(他労組)の声は、私のもとにたくさん届いています。

MGUでは「社会課題体感ツアー」(※)という形で、組合員が社会に関心を持って自発的な一歩を踏み出すための取組みを今年から始めました。ありがたいことに、最近では、他社に比べると一歩先を進んでいる、MGUはすごい、という声も頂くようになりました。

社会課題体感ツアーとは:
オンライン×短時間で、社会課題の現場を視察して現場プレイヤーと対話する企画。2022年は「食品ロス」「補助犬」「プラごみ」「ホームレス」の全4回を開催し、MGUの組合員やその家族を始めとして延べ356名が参加した。

食品ロス問題に取り組む「日本フードエコロジーセンター」高橋さん
「日本フードエコロジーセンター」の工場をオンラインで見学

金田:社会課題体感ツアーを生み出すにあたっては、リディラバの皆さんとゼロベースで「組合員にどういう機会をつくるべきか」について、かなり丁寧に議論しました。

リディラバさんは、リディフェス、中高生向けツアー、企業研修など様々な形で「社会課題に関心を持つ」きっかけづくりに取り組んでいますよね。

大人から子どもまで、社会課題と世間の人たちを結ぶ役割を果たしてきたリディラバ的視点で、うちの組織をどうしていくべきか…

議論を重ねた結果生まれたのが、社会課題体感ツアーです。

ツアーは、私が思う「労働組合としてのミッション」ともまさに合致していますし、他企業の労働組合にも興味を持っていただいたことで、今ではMGUに限らず多様な企業がともに社会課題を体感する場へと成長しました。

実際、他労組の参加者からも「何かしらやらねばと思っていたので、『これだ!』とアクションの方向性を見つける良い機会になった」「他社とフラットに1つのテーマについてディスカッションできたことも良かった」などの声をいただいており、新しい学びのプラットフォームとして徐々に育ってきたなと思います。

来年も引き続き体感ツアーを開催する予定ですが、続けていくことによってMGUとして打ち出せる社会インパクトをもっと拡げられるかもしれない、というワクワクもありますね。

「なにか価値を出せ」—答えなき領域で、MGUが踏み出した一歩

清水:この対談をご覧いただいている方は、人事部を始めとして、会社組織として人材育成や組織変革をどう成し遂げるべきか、日々考えている人が多いと思います。

金田さん自身は、人材育成や組織上の課題についてどのように感じていますか?

金田:「価値の出し方」が複雑になってきた感覚がありますね。

今までのように、決まった手順で仕事をこなしていれば自然と顧客や社会に価値を生み出せる状況ではなくなってきていますし、会社からは「何か価値を出してくれ。領域や方法は問わない」といった、大きな枠組みでの指示が多くなっていると感じています。

自発的に「どうすれば価値を生み出せるか」を考えて実行しなければいけなくなっている。

そのため「そもそも、今世の中で何が問題となっているのか?」「その問題に対して、どういう社会が本来の理想なのか?」を自分で見つけてビジョンを描く力がないと、スタートラインに立つことすら出来ません。

それほど、今の世の中は答えのない領域に突入しているということだと思います。

清水:そこでも「世の中の事象に関心を持つ」ことが求められるんですね。

金田:そうです。では、どうすれば社会の出来事に興味を持つようになるのか?

自分自身の経験を振り返ると、本当に何かに興味を持つためには「体感する」「実際に触れてみる」という経験が大切だなと思っています。

例えばですが、野球に興味を持つきっかけが「ルールブックを読んだから」なんて人、いないじゃないですか。

バットを振ってみたり、ボールを投げてみたり、あるいは野球場に足を運んでみたり、何かしら自分自身が一歩を踏み出し、感じることで、初めて興味が生まれるんだと思います。

そう考えると、社会課題という領域についても、まずは課題の現場に直接触れてみる、というちょっとした経験が何よりも大事なんじゃないかと思っています。

何に興味を持ってもらうか、といった個々人の内面にまで組織が手を加えることはできません。

しかし、そういった想いが湧き上がるきっかけを作ることは私たちでも出来ることだし、これこそが組織づくりに関わる人間のミッションなのではないかと私は思っています。

MGUの場合は、その一歩目が「社会課題と関わるきっかけづくり」としての体感ツアーだったということです。

本物の課題に触れて初めて気づく「ビジネスの余白」

清水:社会課題体感ツアーは今年4回開催しました。実際に開催したことで感じる効果はありますか?

金田:自分が何かしら一歩を踏み出すことで問題解決に貢献できるかもしれない、と思えたのが、とても大きな効果だったと思います。

「社会課題」を、漠然とした言葉として捉えているときには、なんとなく難しそう、なんとなく自分の仕事とは関係無さそう・・・といった先入観に支配されがちで、自分が何かしら一歩を踏み出すことで問題解決に貢献できるかもしれない、なんてことは思えませんでしたが、

社会課題体感ツアーの中で、リディラバさんに特定のイシューについて「構造」を解説してもらい、その後に課題の現場を視察したり現場の方と対話することで、漠然としていた「社会課題」に対するイメージが変わっていきました。

例えば「食品ロスがなぜ起こってしまうのか?」「なぜホームレス状態に陥ってしまう人が後を絶たないのか?」などについて、課題の全容が徐々にクリアになることで

「もしかしたら、このポイントであれば自分の事業を通じて何かできるかもしれない」という接点を自分なりに見つけられる仕組みになっているのが良かったと思います。

清水:直近では、ビッグイシューさん(※)で、オンラインツアーを開催しましたね。

ビッグイシューとは:
ホームレス状態の人たちが路上で雑誌『ビッグイシュー』を販売。ホームレス状態の人たちに収益源を生み出すだけでなく、お客さんとの会話などを通じて社会性を養うなど多様な側面で自立支援をサポートしている企業

金田:あれもまさに「体感」と「構造理解」によって一歩を踏み出すという私たちの理想形が見えたツアーでしたね。
 
ビッグイシューで実際に販売に従事されている当事者の話を伺ったことで、彼らがどんなことに困っているのか、というリアルの一端を知ることができました。
 
例えば、ホームレス状態の方々にとって「現金をどのように管理するか」というのは非常に難しい問題です。
 
一定のお金を貯めることは社会復帰の重要なファクターであるはずなのに、問題構造をひも解くと実は彼らは住所がないために銀行口座を作ることが出来ない。そのため、彼らが自分のお金を管理するためには、コインロッカーにしまうか、自分で握りしめて一夜を明かすしか方法がない。
 
つまり、誰もが安心してお金を貯められる社会にすることが、ホームレス状態の方々の困難を取り除くことにもつながると気づけたんです。
 
マルイグループでも「ファイナンシャルインクルージョン」というテーマを掲げていますが、これらの気づきは普段の仕事だけではなかなか得られないものですし、私たちのビジネスを通じて何か出来ることがある、ということを自発的に発見できる瞬間だったのではと思います。

第4回「ホームレス問題」ビッグイシュー佐野さん(右)と販売者さん(左)

「本気で考え抜いた経験が、本業に生きている」フィールドアカデミー参加したことで生まれた変化

清水:MGUさんはフィールドアカデミーにも人材を派遣いただいています。体感ツアーとはまた違った、一定期間どっぷりと社会課題解決に取り組むプログラムに参加することの意義についてはどのように感じていますか?

金田:大きく2つ、本業につながる意義があったと思います。

1つ目は、社会課題解決に本気で挑んだ経験そのものが、自分の言葉で事業を語るために必要な「自信」につながっていることです。

例えば限界集落の住民との出会いをきっかけとして、彼・彼女の「あの笑顔」をなんとか未来にのこしていきたい…ではどうすればのこすことが出来るのか…

1人の顔が思い浮かぶ領域で心から課題解決に奔走した経験が、本業においても「will」起点で事業の意義を語る原動力につながっていると感じています。

2つ目は、自分が本気で企画した提案に対して、他者の賛同を集めることの難しさをまざまざと体感できたことです。

社会にとって良い提案を本気で考え抜いたとしても、それで本当に周囲の行動を変えることができるかというのは全くの別問題です。自分が考えたこの提案は本当に他者に響くのか、他者の行動を変革できるのか。

いわばカスタマージャーニーを社会課題という世界で本気で考えた経験が、本業において周囲を動かすためのある種の失敗体験として機能しているのではと思います。

これらの経験は、もちろん労働組合にとっても大切なものですし、これからのビジネスを牽引する上でも非常に大事な視点だったのではないかと思います。

いずれにせよ、自分が本気で挑んで成功した、失敗したという経験を自分なりの形で本業にはね返すことのできる点が、フィールドアカデミーに参加した意義だったと感じています。

「座して待つのではなく、自分から変革を起こしたい」—組織変革に本気で挑む理由とは

清水:最後に、金田さんのこれからの「野望」について聞かせてください。

金田:労働組合がなぜ存在しているのか、その意味をMGUという枠組みを超えて世の中にアクションベースで提言したいと思っています。

仕事に人生の多くの時間を費やすからには、自分の仕事を通じて社会に少しでも良い影響を与えたい。そういう想いを持った人は徐々に増えている感覚があります。

しかし、自分たちだけで出来ることには限界がある。そうであれば、自分のアクションに共感してもらえる人をどれだけ増やせるかがこれからの勝負かなと思います。

「MGUって、すごいチャレンジしてるよね」という認識が少しずつ広まっていけば、MGUの取組みに共感して参画してくださる企業(組合)の輪が拡がっていきますし、MGUの組合員の自己肯定感も上がっていきます。

それらが積み重なることで「労働組合がこれから果たせる役割」を社会全体に示すこともできます。

世の中を見渡せば、エシカル消費、エシカル就活などに代表されるように、社会に利する行動を積極的に取りたいという層が、特に若い世代を中心に増えてきているのではないでしょうか。

実際、リディラバにもそういった人たちがインターンの学生を含めて集まってきていますよね。

より若年層に目を向けると、今は小学校からSDGsを当たり前のように学ぶ時代になっています。「社会に利する行動」を取ることは、これからの時代では当たり前になるかもしれない。

現在の価値観のみにとらわれることなく「未来の顧客」「未来の社員」に対して責任をもった事業運営・組織運営ができているかどうかは常に意識したいと思っています。

まだまだマジョリティとまでは言えませんが、これからどんどん時代の趨勢は変化するのではないでしょうか。

いやむしろ、座して待つのではなく、社会全体を私たちの手で積極的に変えていかないといけないのかもしれませんね。

新しいアクションに踏み出すためには大変なこともありますが、自分のアクションがきっかけとなって社内外に仲間が徐々に増えていく感覚を味わっています。

まだまだ至らなさもありますが、それでも「今、この瞬間自分が前向きに動けていること」は、何もせず社会の変化を待っているよりも楽しいなって思いながら、試行錯誤を重ねる日々ですね。


第5回 社会課題体感ツアー「食品ロス」
〜 「それ捨てちゃうの?!」食品再利用の循環を生み出す新たな挑戦 〜
1月21日(土)
10:00〜12:00 @オンライン

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お問い合わせは、以下よりご連絡ください

対談者プロフィール

マルイグループユニオン
中央執行委員長 金田素樹さん

1981年、愛知県生まれ、東京農工大学卒業後、2006年に㈱丸井グループに入社。店舗販促業務や経営企画、営業企画などを経て、新規事業開発にも携わった後に2018年9月より㈱丸井グループの企業内労働組合の中央副執行委員長(専従)に就任。2022年9月より現職。

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株式会社Ridilover(リディラバ)
企業研修チーム プロダクトマネージャー 清水一樹

1992年、神奈川県生まれ。東京大学卒業後、三菱地所株式会社にて横浜エリアの新規不動産開発・エリアマネジメントを担当。
2019年、株式会社Ridilover(リディラバ)入社。企業向け人材育成プログラム「Field Academy」の事業立上げや、大企業の新規事業立上げ支援、官公庁向け事業を複数所掌

(肩書きなどは、2022年12月時点のものです)