「現場に行って、愕然としました」 ー 外資系から社会課題へ越境して気づいた『仕事の在り方』とは?
「正直『大変なところに来てしまった』と、最初は愕然としましたね。」
フィールドアカデミーは、会社を超えたチームを組んで社会課題の現場を実際に訪れ、課題解決に挑戦する越境学習プログラムです。
普段は、外資系企業でファンドレイジングに携わる小平健さん。
フィールドアカデミーの経験を振り返って、「普段の仕事と全く違う世界だからこそ、仕事の在り方を問い直すことが出来た」と語ります。
「社会課題の現場」とは、どのような世界だったのか?
会社を超えたチームワークで見出した「自分の強み」とは?
普段と全く違う世界だからこそ問い直せた「仕事の在り方」とは?
今回は小平さんに、フィールドアカデミーで得た経験と、現業に戻って改めて感じた気づき・学びをお伺いしました。
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目次
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小平 健 さん
大手銀行にて金融関連の各種事業を担当したのち、2018年よりカーライル(米系プライベートエクイティファンドの日本オフィス)にてファンドレイジング事業等を所掌。2023年に開催されたフィールドアカデミー(テーマ:限界集落と農業の未来)の社内公募に際して、自ら手を挙げて参加した。
ビジネスの最前線から社会課題の現場に『越境』した理由
—はじめに、フィールドアカデミーに参加したいと思った動機を教えてください。
一言でいうと、「環境をガラッと変えられる」というコンセプトに惹かれたんです。
他の会社もほとんど同じだと思いますが、当社の場合も、社外研修にはさまざまな選択肢があります。
たとえば金融の知識を学ぶ講座形式の研修や、ビジネス上のケーススタディについて他の会社の人たちと一緒に考えるワークショップなど、挙げればキリがありません。
私の場合は、せっかく会社の外に出る機会があるなら、普段のビジネスとは全く異なる世界に飛び込みたいと考えたんです。
「普段と全く異なる世界に飛び込んだら、自分は何を考え、どんなアクションを取ろうとするだろう?」ということが、とても気になったんです。
こういう機会って、なかなか普段得られるものじゃないですよね。
なので実は、社会課題という領域そのものにものすごく関心があったかというと、そうでもなくて。
できるだけ普段と違う環境を味わいたいなと考えた末に選んだ領域が、社会課題だったということなんです。
「解くべき課題すら決まっていない」ー想像をはるかに超える現場と向き合う
—実際に社会課題の「現場」に足を踏み入れて、どんなことが印象的でしたか?
自分の想像と、実際の現場に、ものすごく大きなギャップがあったことです。これは非常に衝撃的な経験でした。
私が訪れた現場は、新潟県の中山間地域にある限界集落でした。
新潟県十日町市・津南町で構成される「越後妻有」地域は、他の多くの地方自治体と同様に過疎化・高齢化が進行する、人口約6万人のエリアです。
地域の100以上の集落で住民がアーティストと共にアート作品を創り上げる「大地の芸術祭」は、会期(50日)中の来場者が50万人を超え、地域の経済振興や住民を主体とした活性化施策に関する世界的なロールモデルとなっています。
小平さんが参加した今回のフィールドアカデミーは、大地の芸術祭を運営するNPO法人越後妻有里山協働機構がパートナーとなって、地域の実情を問いながら、NPOに対して課題と解決策を提言するプログラムでした。
フィールドアカデミーは、「社会課題の現場に行って、解決策を提言する」というコンセプトですよね。
このコンセプトから私が想像したプログラムって、いわゆるケーススタディなんですよ。
たとえば『人口が減って困ってるんです』といった、ある程度形になった「お題」があって、そのお題について現地の方から色々とお話を伺って、得られた情報をチームで整理して、最後にお題を解決するためのアイデアを提案する。
もちろん、実際に困っている人たちがいるので厳密には「ケーススタディ」ではないのですが、用意されたお題に沿って解決策を考えるシンプルな研修なのだろう、という思い込みがありました。
しかし、フィールドアカデミーにはそもそも「決まったお題」がなかったんです。
もちろん、現地住民やNPOの皆さんなど、色んな人に出会える機会はありましたが、「何が課題なのかを見出すこと」こそが自分たちのミッションでもありました。
最初こそ戸惑いましたが、住民・行政・NPO・その周囲にいる様々なステークホルダーの方々とお会いすることで、お題を簡単に決められないことが現場のリアルなんだと実感したんです。
というのも、社会課題は構造がとても複雑なんです。
ステークホルダーの中に地域を悪くしようと思ってる人なんていなくて、それぞれにやむを得ない立場や事情がある。みんな違う立場から何かしらの「想い」を持って地域に向き合っているからこそ、その想い同士が時にはぶつかり合うこともある。
複雑な世界を知れば知るほど、たとえば「行政より住民の方が正しいので、こっちの課題解決を優先しましょう」といった単純な優先順位づけなんて、とてもじゃないですが出来ないことに気づきました。
シンプルなお題に沿った研修ではなく、カオスの中に身を投じてもがくプログラムでしたね。
—課題の複雑さを目の当たりにして、どのようなことを感じましたか?
これが現実の社会課題なのか…と、愕然としました。
正直「大変なところに来てしまった」と思いましたね。
誰のために何を優先させるべきなのだろうか。簡単に決められないことに対してもどかしさも感じましたし、なかなか思うようにソリューションを構築できない自分へのショックもありました。
正直私たちだけだと、課題の複雑さにただ戸惑うだけでプログラムが終わっていたかもしれません。
だからこそ、「トップランナー」の事業は非常に参考になり、また勇気づけられる存在でもありました。
フィールドアカデミーでは、プログラムテーマごとに「トップランナー」を選定し、伴走するスタイルを採っています。
今回のテーマでは、NPO法人越後妻有里山協働機構の事務局長である原蜜さんがトップランナーでした。
原さんは、黎明期から20年以上にわたって「大地の芸術祭」の企画・運営の実務責任者として、越後妻有地域の課題解決に従事しています。また「瀬戸内国際芸術祭」・「いちはらアート×ミックス」をはじめとする全国各地の芸術祭運営にも関わり、国・自治体、集落の住民、アーティスト、ボランティアスタッフなど、異なる背景を持った人々が関わる現場をまとめ上げている方です。
原さんたちは、複雑に入り組んでいる課題の本質を捉えながら、現場の人たちと向き合い続けて、芸術祭という形でインパクトを発揮している存在です。
その裏には、地域に対する深い理解、そして単純化出来ない想いがあります。
原さんたちと共に地域を巡って、同じ時間を過ごすことで、原さんというレンズを通して地域や社会の構造がどうなっているかを深く知ることができました。構造を知れば知るほど、芸術祭というソリューションが持つ力強さを実感することもできました。
その結果、私たちもプログラム初日に比べたら社会課題への視座がどんどん高まっていったと思います。
課題は確かに複雑ですが、それを乗り越えて価値を出し続けている人たちがいる。
それなら自分たちも、短い期間だとしてもどうにかして地域に価値を出す提言までこぎつけたい。そんな熱量が、プログラム後半にかけてどんどん高まりましたね。
異業種チームだからこそ、自分をさらけ出すことができた
—フィールドアカデミーでは、会社横断のチームで課題解決にチャレンジしていただきました。
カオスな環境の中でのチームワークも、またカオスでしたね。
業種も、年齢も、興味関心も、得意・不得意も、まるっきり異なるメンバーでチームアップをしました。
異質なメンバーが集まって課題解決に挑むことは、私にとってはとても大切な成功体験でした。
お互いの強み・弱みを理解し合いながら、プロジェクトを前に進めていく経験になりましたね。
例えば、同じチームのAさんは、私より世代が下で、構造的に問題を整理することが得意なタイプでした。Bさんは、私と同世代で、元々社会課題への想いを持ってこのプログラムに参加した方でした。
それに対して私は、社会課題に対する想いや、構造的に整理する力にはあまり自信がなかったのですが、普段の業務でファンドレイジングをやっていることもあって、当事者(顧客や運用者)の想いや成し遂げたいことをヒアリングしながら読み解き、言語化していくことは比較的慣れていました。
お互いの関心や強みが異なるからこそ、お互いに刺激を受けましたし、「自分が力を発揮するのはこの分野だ」と自分がチームに貢献できる余白を各々が見つけ、限られた時間の中でもチームとしての出力を最大限に高めることが出来ました。
そうはいっても、提言をつくる過程ではなかなか意見がまとまらないこともあって難儀しましたね。
そもそも業種や会社が違うと、普段当たり前にこなしている議論の進め方なども全く異なるということを初めて知りました。なので、小さなことから一つひとつ、メンバー間で合意しながら進めないといけない。
普段、自分が当たり前に取り入れている仕事の進め方を問い直すきっかけにもなりました。
—なぜ、業種や会社の壁を超えてフラットに議論し続けることができたのでしょうか?
社会課題の世界はものすごく複雑で、まだ解決されていない未踏の領域なので、私たちの誰も正しい進め方を知りません。
だからこそ逆に、経験値や立場の差を超えてフラットに議論できたのかもしれないですね。
それに、普段接点がない人とチームを組んで、共に長い時間を過ごして、社会の未来について真剣に語り合って、同じ釜の飯を食べて…という日々を過ごしていたら、自然とチームアップが出来てくるんですよね。
普段、ここまでお互いの素性をさらけ出せる機会ってなかなかないですし。
プログラムの最後に、課題解決の提言とは別で、共に過ごしたチームメンバーに対して「手紙」を書くという時間がありました。
いわゆるピアフィードバック(※上司・部下間ではなく、同じ階層同士の対等なフィードバック交換)です。
といっても、ただ互いの弱みを指摘し合うのではなく、答えのない難問に挑んだ仲間に対するエール交換です。ここまでチームアップしてきたからこそ、互いに忌憚のないエール交換ができましたね。
この手紙を通じて、チームメンバーからいただいたフィードバックはものすごく印象的でした。
まさに、私が普段感じていた自分の強み・弱みを、メンバーからまっすぐ言い当てられていたんです。
短い期間の中でも、自分の強み・弱みが余すことなく出ていた事実に驚きました。
おそらく、お題も進め方も全くわからないカオスの中でもがくことで、私もかなり素性をさらけ出さざるを得なくなっていたんでしょうね。
同じ環境でもがいた仲間から最後に言われたことで、職場でのフィードバックよりもまっすぐ自分の心に刺さりました。フィードバックの心への沁み方が違ったんです。
普段の仕事にも、本当はもっと「複雑な構造」があるのではないか
—フィールドアカデミーを通じて、現業に活かすことのできる学びはありましたか?
数え切れないほどありますが、私にとって一番の学びは「複雑な構造から目を背けない」ことの大切さです。
社会課題の現場には一言では表せないたくさんの課題が存在していて、ステークホルダーによって想いが異なり、複雑に絡み合う実態を目の当たりにしました。
そんな複雑な構造を目の当たりにした時に、どうしても構造を単純化することばかり考えてしまうという自分の思考のクセに気づいたんです。
私たちのチームが最後に提言したソリューションも、地域の構造をできるだけシンプルに再構成して「こう捉えれば解決するのではないか」というものでした。
しかし原さんからのフィードバックを通じて、言外のメッセージも含めて「『矛盾』の中でしか成立し得ないものとして、在りのままを届けていきたい」という切実な思いや実態を改めて突きつけられました。
たしかに単純化していけば解決策は考えやすいかもしれない。しかし、単純化する過程で失われてしまう深い事情・コンテクストがあるということを、原さんたち現場の皆さんは私に教えてくれた気がします。
では「社会課題の世界は複雑、現業やビジネスの世界はシンプル」という区分けができるかというと、実は違うのでは?とも思うようになりました。
改めて考えてみれば、現業の世界にも当然さまざまなステークホルダーがいるので、もしかしたら今も利害や想いがぶつかっている領域があるかもしれない。
今までの私だったら、できるだけシンプルに考えようとしていたはずですが、「自分のビジネス領域にも、見落としている深い事情やコンテクストがあるかもしれない」と考えるようになりました。
現業と異なる世界に飛び込んでみたからこそ、自らのビジネスを俯瞰して捉えることができるようになりましたし、複雑な事象を単純化せず本質を突き止めることが仕事においても重要だと強く意識するようになりました。
仕事の在り方そのものを問い直すきっかけになるとは、参加する前は想像もしていなかったですね。
—最後に、これからフィールドアカデミーに参加するかもしれない方々に向けてメッセージをお願いします。
インタビューを通じて「難しい」「複雑」という話をたくさんしましたが、一言で言うとどんな経験だったかと聞かれたら素直に「楽しかった」と答えますね(笑)。そして、刺激的です。
原さんをはじめ現場の方々も、ものすごく面白くて素敵な人たちばかりでしたし、他の会社のメンバーとも未だに連絡を取り合う間柄です。もちろん、リディラバさんも同じです。
社会課題への挑戦は困難なことですし、自分の弱みをさらけ出す機会になるので大変なことも多かったですが、まずは思い切って飛び込んでもらえたら、間違いなく楽しい経験を味わえるでしょう。
リディラバでは、本プログラムを始めとして、社会課題を通じて企業様の事業課題・組織課題に対応すべく、企業研修・リーダー育成等の各種ソリューションをご提供しております。
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