Ridilover(リディラバ)社会課題をみんなのものに

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他ではありえない!越境学習担当3名が明かす、フィールドアカデミーで出会う“本物”の社会課題とは?【前編】

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他ではありえない!越境学習担当3名が明かす、フィールドアカデミーで出会う“本物”の社会課題とは?【前編】

2018年の経済産業省・「未来の教室」実証事業以来約7年にわたって、リディラバは社会課題の現場で、ビジネスパーソンの人材育成に取り組む越境学習:フィールドアカデミーを推進してまいりました。

人材育成市場の環境も大きく変わり、事業開始当初は「越境とは何か?なぜ必要か?」からご説明をしておりましたが、今や複数の越境サービスを比較検討している企業さまも増えてきております。

人材育成市場に越境学習の選択肢が増えたことに伴い、「リディラバは何ができるのか」「他社サービスとの違いは何か」というご質問をいただくことが多くなりました。

そこで今回は、フィールドアカデミーの真髄に迫るべく、事業立上げ初期から一貫して企画開発に携わるリディラバ・企業研修チームの3人を迎え、プログラムの裏にある設計思想や「リディラバならでは」の越境先の現場・テーマについてのインタビューを実施し、その秘密を少しだけうち明かしてもらいました。

プロフィール紹介

今回インタビューを行ったのは、リディラバで大企業の人材育成・組織開発の課題に取り組む、企業研修チームの3名になります。

夏目 翔太(以下、夏目)
1991年、東京都生まれ。生まれも育ちも荒川区町屋。立教大学卒業後、通信メーカーの新規事業創出に4年間従事した後、2019年に株式会社Ridilover入社。企業向け人材育成事業「フィールドアカデミー」の事業統括を務め、現在までに累計60社以上の大企業のリーダー育成に関わる。

清水 一樹(以下、清水)
1992年、神奈川県生まれ。東京大学卒業後、三菱地所株式会社にて横浜エリアの新規不動産開発・エリアマネジメントを担当。2019年、株式会社Ridilover(リディラバ)入社。企業向け人材育成プログラム「フィールドアカデミー」の事業立上げや、大企業の新規事業立上げ支援、官公庁向け事業を複数所掌。

石井 孝明(以下、石井)
1993年神奈川県生まれ、愛知県在住。立教大学卒業後、アビームコンサルティング株式会社にて、ITコンサルティング業務とCSR部門を兼務。2019年、株式会社Ridilover(リディラバ)に入社。社会課題の構造を紐解くメディア「リディラバジャーナル」のグロースを担当した後、企業人向け人材育成事業のインサイドセールス、プログラム開発・実施に従事。

※聞き手:リディラバ井上(大学生インターン)

-セミナールームを飛び出して、社会課題の現場へ-次世代の人材育成が立ち上がった背景

Q.「社会課題」と「人材育成」は一見して遠いもののように感じてしまいますが、そもそもリディラバはどんな経緯で社会課題の現場で人材育成事業を立ち上げたんですか?

【清水】

リディラバは設立当初から「社会課題の現場に人を連れて行く」ことをずっとやってきていて、企業向けの人材育成プログラムもその成果をもとに立ち上げたんだよね。

もともとリディラバは2009年にボランティア団体から出発していて、現代表で当時東京大学に在学していた安部(敏樹/代表取締役)が、「これからの日本を担う学生にこそ、日常では経験できない『現場』に行って社会の実態を体感してほしい」という目的で、社会課題の現場を舞台にしたスタディツアーを立ち上げた。五感で体感して、自分自身で考えて、仲間と議論して、アクションを起こしてもらうきっかけを生み出す。そのために「まずはみんなで現場に行こう」と呼びかけていった。まさに、今でいうところの「越境」的な発想だよね。

活動しているうちに、学校機関・行政・企業からも「現場に連れて行ってほしい」という声がどんどん集まってきて、じゃあ本格的に事業としてやっていこうぜということで、企業向けに「研修事業」を立ち上げた。

【夏目】

そうそう。

研修事業をやり始めてわかってきたことが、当時の研修市場の「行き詰まり」感だった。それまでの企業研修のメインは、出されるお題が「自社の課題解決」のようにある程度想像しやすいテーマだったり、開催場所もセミナールーム、さらにはグループメンバーも社内の人ばかり、フィードバックする人も研修講師や会社の上長だったり。要は「日常業務とあまり変わらない環境」で机上のケーススタディに取り組みましょうという立て付けだった。

確かに、ビジネスの外部環境が変わらない前提であれば、日常業務の延長線上で研修をやってもそれなりの効果は得られるんだろうけど、今のビジネスの外部環境は明らかに激変している。今までと同じようなスタイルで事業をやっていても生き残れない経営環境なのに、研修は今まで通りで良いのか?という課題感が、漠然とビジネスセクター全体に渦巻いていた。一言で言うと、「与えられたお題をどう解決するか」というHOW型・課題解決型の人材育成ではなくて、「解くべき課題は何か」から自分で考えて自律的に周囲を巻き込んで新たな価値を生み出すことができるWHAT型・課題設定型の人材育成の方が重要なんじゃないか、という空気になっていたんだよね。

それまでリディラバが実践していた「慣れ親しんだ領域の”外”に出る」活動がまさにそういう課題感にマッチしていて、同じ課題感を持っていた経済産業省の教育産業室と意気投合した。経産省も「このままで、これからの不確実な時代を牽引する日本の産業人材を、本当に作れるのか?」という課題感を持っていて。そこで経済産業省は、新しい社会人教育のあり方を考えて実践しようというプロジェクト「未来の教室」を2018年に立ち上げて、リディラバは実証事業を実行する一員として「新しいリーダー育成プログラムを作る」ことにコミットし始めた。

今もやっている「フィールドアカデミー」は、経済産業省の実証事業で一定の成果が得られたので、スピンアウトして2019年からリディラバの自社事業にした…っていうのが大まかな経緯かな。

【清水】

リディラバは当時から一貫して「まず、慣れ親しんだ社内環境から飛び出そう」ということをずっと言い続けてるんだよね。会社の外に飛び出して、リアルな現場の中で、実際に課題に苦しんでいる人たちと出会いながら、価値のある提案をゼロから考えて実際に社会を変える挑戦にコミットする「本物」の経験にこそ、人材育成としての価値がある。ある種、研修という枠を飛び越えるくらい勢いのある企画を作っていこうという発想から、フィールドアカデミーが生まれていった。

次世代の企業人こそ向きあうべき!リディラバだからこそ連れていける、「リアリティを持った」社会課題の現場

Q.リディラバは400以上の社会課題の現場とネットワークを持ってますが、その中でもビジネスパーソンの越境先である社会課題の現場には、どんな特徴があるんですか?

【夏目】

僕らが越境先として協働している社会課題の現場には、大きく2つの要素があって…

1つ目は、事業性と社会性を両立している団体であるということ。社会課題の世界ってどうしても、「ボランティア」や「企業活動とは別の世界」っていうイメージを持たれがちなんだけど、NPOでも株式会社でも「事業」として社会課題解決の仕組みを成立させているプレイヤーって実はすごく多いんだよね。それらはいわゆる普通の営利活動とも違っていて、自分たちの事業によって誰の課題がどうやって解決できるのか、という「構造的」に社会を洞察する視座が非常に優れてる

「社会性」一本足でもないし「事業性」だけに振り切っているわけでもない、2つを高度に両立させている現場を体感すると、最初は「社会課題は遠い話」と思っていた参加者の目の色が、みるみるうちに変わっていく。自分たちと遠い世界の話じゃないんだ、ビジネスとも関係しているんだ、という発見があることは、越境先としては重要な要素だなと思っている。

もう1つは、ビジネスパーソンにとって「ロールモデル」となるトップランナーの存在。事業性と社会性を両立させた事業って、非常に難易度が高い。だからこそ、ビジネスを通して社会課題解決を推進しているトップランナーが持つスキルは、これからのビジネスパーソンにとって凄い刺激になる。

例えば、さっき言った「構造的」な視座や、行政・地域住民など相反する利害をもった多様なステークホルダーと調整しながら目的を成し遂げていく「合意形成力」もある。更には、「誰もやらないなら俺がやる」というような、自律的に開拓していく強いビジョンと行動力も兼ね備えてる。

総合すると彼らは、「複雑な現状を打破し、新しい時代を切り開くリーダー」なんだよね。大企業出身の参加者も彼らに会うと、その凄まじさに圧倒されて、これまでの自分の常識や実力を大きく揺るがされるのよ。これこそ、越境のひとつの醍醐味だと思うね。

【石井】

ビジネスパーソンの学び・気づきを最大化することを考えると、ホントこの2点は特に重要で。

正直、「大企業」と「現場」をつなぐ越境の設計は簡単ではないから、社会課題なら何でもアリ!っていうわけではなくて。ただ、リディラバはメディア事業や教育事業を通して様々な現場と、長期で継続的に協働する中で信頼を積み重ねているからこそ、越境先と丁寧に議論しながらプログラムを設計・運営することができているんじゃないかなと思う。

【清水】

加えて言うと、「自由に動き回れる余白」があることも、越境では大事な要素だね。

実際の仕事って、自分から課題を探しに行ったり、お客さんに話を聞きに行かない限り、何も始まらないじゃない?研修も同じであるべきで、事務局が用意した相手に、用意した通りに質問していくだけでは、現業に活きる活動になり得ない。

だから、例えば自分たちで一部のヒアリング先を見つけてもらったり、敢えて自由にフィールド探索する時間を設けてみたりと、参加者自身が主体性を持って活動できるだけの「余白」をいかに作れるか、を大事にしてるかな。

実は、この思想はプログラム全体にも関わっていて。そもそも社会課題は答えのない世界。だからこそ、ヒアリングもチームワークも提案も、誰かが示したお題目に従うのではなく、全て自分たちで仮説検証しながら進めるしかない環境なんだよね。フィールドアカデミーは、参加者が社会課題の現場に対して提案をしてもらうプログラムなんだけど、何の課題に注目するのか、なぜそれが課題だと考えたのか、どうするのがベストか、という提案の骨子も、全部自分たちで決めてもらうようにしてる。

そういう難解な課題に向きあう際の主体的な動きやすさも、越境学習の効果を最大化する現場の要素としては重要だと思う。

Q.多くの企業人事や事業開発の担当者にとって、越境学習に最適な現場を探し当て、協働することは難しいと思いますが、どうしてリディラバはそれができるんですか?その裏にはどんな工夫がありますか?

【石井】

フィールドアカデミーで越境するテーマや領域を選ぶにあたっては、僕らリディラバ自身が課題の「構造化」をできているということが、プログラムを設計するにあたってむちゃくちゃ重要な意味を持つと思っている。

リディラバでは、メディア事業であるリディラバジャーナルを中心に、すべての事業で社会課題の「構造化」という思考プロセスを非常に重視してる。「構造化」っていうのは、ある社会課題をとりまくステークホルダーの関係性を分析して全体観を捉えることなんだけど、この「構造化」がない状態だと、プログラム設計や事業提案をつくるツボを押さえられない。たとえば、ヒアリング先として最適なのは、行政なのか/住民なのか?行政の中でもどの部署がこの課題にもっとも関係しているか?住民といってもいろんな立場の住民がいるけど、どんな人をアサインすれば良いだろうか?とかね。もちろん、実際には現場の人たちの知見や経験を借りながら設計するんだけど、彼らの知見を引き出してプログラム設計に落とし込むためにも、まずはリディラバ自身が「構造化」できているということが大事と思ってる。

▲『リディラバジャーナル』構造化特集より

【夏目】

社会課題の現場と聞くと、「この団体は再生可能エネルギーに取り組んでいる」とか、「あの団体は貧困問題を解決しようとしている」というように、課題領域の違いだけがイメージされがちなんだけど、実は同じ課題領域でも、現場によって課題の構造や事業の形もバラバラなので、「再エネならこうだ!」というような画一的な発想だけでは良いプログラムって作れないんだよね。

だからこそ、この現場が大事にしている思想は何か?ステークホルダーとの関係はどうなっているか?どんな側面を見せると、参加者にとっての学び・気づきが最大化されるか?ということを、僕らリディラバは誰よりも真剣に見極める必要があるし、見極めるためには僕ら自身が現場の人たちと同じくらいの解像度で課題を理解していることが必要になる。この点は他と比較して、15年間社会課題に向き合ってきたリディラバじゃないと、簡単にできることじゃないんじゃないかな。

【石井】

その通りで、現場のトップランナーの方も「そこまでわかってるリディラバなら」「そんなリディラバが連れてくるビジネスパーソンになら特別に…」と、起きている事の裏の裏まで結構踏み込んで話してくれることも多い。そういう本音や実態が、ひいては参加者のアウトプットの質にもはね返ってくる。うわべの話を聞いただけで生まれる提案ではなくて、実態の深いところまでわかっているからこそ、リアリティのある提案にまで昇華されるというか。

机上の空論にならないから、提案というアウトプットに限らず、参加者が事業をつくる挑戦も、挑戦の過程で参加者が見出す自身の強みや課題も、表面的ではない芯を食った本物になってくる。こっちが本気であればあるほど、現場も参加者もどんどん本気になっていって、最終的には場全体の熱量の高まりにも効いていると感じるね。

【清水】

現場に行った先で出会えるステークホルダーのバリエーションが多いというのも、キーポイントだと思う。この「バリエーション」と言うのは、単にバラバラといろんな人がいるっていう意味じゃなくて。ある問題を構造化したときに登場するステークホルダーって実は想像以上に多いんだけど、そんな彼らを適切にアサインできている、という意味。

医療福祉のような問題であれば、そもそも医療者だけがその問題にコミットをしていても、もうどうしようもないみたいな実情があったりする。具体的には、誰かが病気になったり要介護状態になって家から出れなくなりましたってなると、その人はものすごい勢いで周囲から孤立しちゃうでしょ?だから、いざという時の手前から、専門家や地域の人たちときちんと接点を持てるような街づくりをやらなきゃいけないっていう「地域包括ケア」みたいな話があって。

となると、テーマが医療福祉だったとしても、重要なステークホルダーってお医者さんとか看護師さんだけに留まらない。介護される当事者やその家族もそう。ひいては地元の町内会のお父さんお母さん、近所の商店街でお店をやっている人、子どもたちの学童をやっている人、高齢者のたまり場を作っている人、デザインから街づくりに関わっている人みたいに、幅広いステークホルダーと出会って、「問題そのもののスコープを拡げる」ことが大事になってくる。もし、これが医療福祉の人たちとだけ議論していると、参加者自身の越境の幅も狭まっちゃうし、その先の学びやアウトプットも小さくまとまっちゃう。さらに言えば、事業提案を受け止める現場にとっても新たな発見がなくなっちゃうんだよね。

【夏目】

問題構造に関わっている幅広い登場人物に、網羅的に接触でき、かつ深いところまで対話できる機会があるというのは、すごく重要だね。

思いの種を芽生えさせる、フィールドアカデミーの仕掛け

Q.企業人がビジネスの世界とは異なる「社会課題の現場」に入り込んでいくのはそう簡単ではないと思います。企業人が主体的に、かつ本気で学ぶために、どんな仕掛けがありますか?

【清水】

フィールドアカデミーは多業種合同でチームを組んでもらうが、その要素がうまく機能しているんじゃないかと思う。

社内研修だとつい斜に構えた気持ちで参加する人も多いのかもしれないけど、所属企業も年齢もカルチャーも異なる人たちが一緒に、普段とは異なる環境に行くというスタートラインの時点で、「こういう機会だからちょっと頑張ってみよう!」みたいな、「いつもの殻を破ろうとする種」は持ってくれる雰囲気を感じるんだよね。最初の自己紹介の場面から、プログラムを通した自身の挑戦について発言する人もいるし、他の参加者もそういう人に刺激を受けて「じゃあ自分も」って思ってくれる人もいる。バックグラウンドの異なる意志ある人材がチームを組むということそのものが、良い循環が起こりやすい土壌になっている思う。

あとはリディラバとして、個々人が持っている「殻を破りたい」という思いの種を、どう最大限引き出してあげられるかだけだなっていう気がしている。

【夏目】

確かに、そういう意味ではチームビルディングの時間はかなり丁寧に取ってたりするね。チーム共通の合言葉を作ってもらったり、「何を頑張りたくてこのプログラムに参加しているのか」を開示してもらったり。「自分も頑張らなきゃ」っていう緊張感と、「自分も口に出して良いんだ」っていう心理的安全性が共存する場を作っていくと、それぞれの中にある「少し頑張ってみよう」という思いの種は、プログラム中に芽になって、実際に力を十二分に発揮してくれる。

【石井】

実はプログラムの前後半でかなり緩急をつけていて。プログラムの前半に初めての現場訪問くらいの時は、ごりごりにインプットを入れながらも、「現場、楽しいな」「地域の食事、おいしいな」「当事者の人、普段の自分よりすごく目を輝かせて仕事してる」みたいに、説得されたからではなく、自身がそう感じたから主体的に関わりたい!と思えるようないろんなきっかけを蒔いたプログラム設計を意識してる。それこそ、現場1日目の昼食をどこにするかみたいな、細部の体験設計なんかも現場のトップランナーと議論したりなんかもしてるね。

特に後半の提案を作るフェーズになると、答えのない世界でもがくことになるから、苦しさに真正面から向き合わなきゃいけないタイミングが訪れる。チームで意見が全くまとまらないとか、「イケる!」と思っていた事業やプロジェクトの案が提案先に全くハマらなかったり、自分自身の至らなさを感じたり。そんな場面をチーム全員で乗り越えてもらうためにも、プログラム前半は出会いや発見、チームメンバーとのひとときを全力で楽しんでもらう。「現場のために・自分の理想のために何かしたい」「このメンバーで最後まで走り切りたい」という課題解決に本気で挑戦するための原動力を見つけてもらうことに心血を注いでるかな。

【夏目】

社会課題という言葉だけを聞くと、先行するイメージって「楽しい!」よりも「大変そう」っていうのがどうしても。一方で、実際にフィールドアカデミーを走り抜けた企業の参加者の方は、「とにかく楽しかった!」「これで終わってしまうのが寂しくて仕方ない」ってみんな口をそろえて言ってくれるんだよね。これはテーマや年度を問わず、本当に毎回同じで。途中苦しいけど、最後はみんな生き生きして、自分達の挑戦をやり切った!という表情なのが印象的だなあ。

後編に続く・・・