子どもの体験格差解消プロジェクト×花まる雪国スクール2026 実施レポート~役割を脱ぎ捨て、ありのままの自分に出会う〜

「家では3人家族のお兄ちゃんだから、しっかりしなきゃいけない」「普段はママが忙しそうで、なかなか自分から話しかけられない」
子どもたちは私たちが想像する以上に、日常の中で「役割」を背負って生きています。一番近くで過ごしている親御さんやご家族に対しても「良い子でいよう」「迷惑をかけないようにしよう」と、無意識に自分を律していることが少なくありません。
もしも、そんな日常の役割を脱ぎ捨てて、真っ白な雪の中に飛び込むことができたら。 普段の生活も、立場も、関係ない場所で、本気で遊んでくれる仲間や大人たちと過ごすことができたら。
リディラバが運営事務局を務める「子どもの体験格差解消プロジェクト」では、2026年1月、花まる学習会提供の「花まる雪国スクール」に、計44名の子どもたちを招待しました。今回はその実施レポートをお届けします。
目次
クラウドファンディングへの挑戦
90名の子どもたちを雪国へ招待するために
今回の取組では、当プロジェクトの発起人の1人である山野智久が代表を務める、アソビュー株式会社のプラットフォーム「アソビュー!」を活用し、12月末からクラウドファンディングに挑戦しています。
今回のクラウドファンディングでいただいたご支援は、全額が1月(本レポート分)と4月に開催予定の雪国スクールの運営資金となり、不足分は事務局が充当します。目標金額に対してはまだまだ道半ばですが、体験へのアクセスが困難な計90名の子どもたちを、雪国へ招待するべくチャレンジしています。既にご支援いただいた皆様、本当にありがとうございました。もし少しでもご支援いただける方は下記リンクよりご支援賜れますと幸いです。

体験格差という見えない壁 | なぜ今、体験が必要なのか
当プロジェクトでは、活動の1つとして子ども支援NPOや体験サプライヤーなどへのインタビュー、学術研究などを通じて、「子どもと体験」に関する調査・分析に取り組んでいます。
近年の研究から、子どもの頃の体験が、意欲や主体性など社会を生き抜くための様々な能力を育むことが明らかになってきました。
一方で、地域の衰退や教員の多忙化、核家族化や共働きの増加により、以前は誰もが身近で低コストに得ることができた体験の機会が大きく減少しました。その結果、家庭環境や子どもたち自身の置かれている状況によって体験機会の享受が二極化する「体験格差」が生まれていることがわかってきています。
このような「体験機会の不足」は、単なる物理的な経験の欠如、という話に止まりません。「社会関係資本(つながり)の希薄化」と「自己効力感の低下」などといった見えない格差につながり、自分に対する諦めの気持ちが強くなっていくことで、無意識に将来の可能性を狭めてしまう危険性があることも見えてきました。
当プロジェクトでは子ども支援NPOや体験サプライヤーと連携し、困難な状況にある子どもたちが置かれた状況に応じて、意欲の向上や自己実現に繋がるような「新しい世界・価値観との出会い」や「信頼できる大人との交流」を得ることができる、そんな体験機会の提供を目指しています。
「生きる力」を育む、花まる雪国スクール
花まる雪国スクールは、当プロジェクトの発起人1人である高濱正伸が代表を務める「花まる学習会」が提供する、子どもたちの”生きる力”を育む野外体験プログラムです。
子どもたちの脳は、好奇心を刺激する遊びや身体を動かす運動によって活性化されるそうです。雪国スクールでは日中のほとんどの時間、真っ白な雪原で、子どもたち自身が遊びを生み出し、大人も子どもも一緒になって過ごします。そのような場を通じて、親元を離れて過ごす経験、本気で向き合ってくれる大人との出会い、初めての仲間と一緒に何かを成し遂げることに挑戦する機会を提供しました。
今回の参加者募集は、東京都内を中心として子ども支援に特化しているNPOと連携しました。50名の募集枠に100名以上の方のご応募が集まり、最終的に44名が参加しました。
実施レポート:白銀の世界で見つけた「新しい自分」
2026年1月10日、朝早くから多くの子どもたちが上野公園に集合し、高速バスで新潟県へと向かいました。
バスに乗り込むと早速、今回の雪国スクールにおける「グランドルール」を共有します。「話は1回で聞く」「リーダーの前は歩かない」といった安全に過ごすためのルールと、「ポイント制」「話を聞く時のルール」など、雪国スクールならではの内容も。
レクも交えながら次々とコミュニケーションが取られていき、初対面の子どもたちの間に一体感が生まれます。「いつもの学校とはちょっと違うぞ」「大きな声を出していいんだ」「ここでは素直にリアクションすることが評価されるんだ」といった心理的安全性が、わずか数十分で醸成されていきました。
また、スタッフは全員、あだ名(リーダーネーム)で呼び合います。大人がまず「先生」という役割を脱ぎ捨てることで、子どもたちにも「ここでは学校の自分じゃなくていいんだ」「〇〇さんちの子、として振る舞わなくていいんだ」という無言のメッセージを送ります。
バスの中での自己紹介や、リーダーから子どもへのインタビュータイム(「何したい?」といった単純な質問から、少しパーソナルな質問まで)を通じて、子どもたちは徐々に「ここだけの自分」を形成し始めていきました。

宿に到着して昼食を食べたあと、いよいよ雪遊びの開始です。 用意されたのは、広大な雪原と、スコップやバケツといった最低限の道具だけ。最初は雪に飛び込むところからスタートしましたが、その後の時間はほとんどが子どもたちの自由です。
最初は遠慮がちに雪を投げていた子どもたちも、リーダーに雪をぶつけ、雪の中に埋めている様子を見ていると目の色が変わります。「やっちゃえー!」と一斉に群がり、大人を雪まみれにして大笑いする子どもたち。 埋められたリーダーも、決して「やってあげる」側には回らず、本気で抵抗し、本気で雪を投げ返します。
大人が本気で楽しんでいる姿、そして自分たちと同じ目線で関わっている姿を見せることで、子どもたちの心理的ハードルは一気に下がります。「ちゃんとしなきゃ」という緊張が解け、本能的な「遊び」への没頭が始まります。この瞬間こそ、子どもたちが「ありのまま」に戻るスイッチが入る瞬間でした。

たくさん遊んでからは、いよいよ夕食の時間です。新潟の美味しいお米を食べながら、ここでも小さな「挑戦」が用意されていました。 それは「苦手な食べ物に挑戦する2分間」。もし一口でも食べられたら、全員で「おめでとう!」のコールを送ります。
そのあと、夜のレクやお風呂の時間を経て、夜21時に就寝となりました。
2日目の朝。子どもたちは前日の疲れも見せず、6時半に起床し、雪原へと繰り出しました。 この日は晴天だった前日とは変わって、雪遊び中も雪が降り続けていました。天気も雪の質も異なる、2回目の雪遊びがスタートしました。
かまくら作りに熱中するチーム、ひたすら雪合戦を続ける子、黙々と雪だるまを作る子。 スタッフは「危ないこと」と「人を傷つけること」以外は口出しをしません。 「自分でやりたいようにやる。ただルールは守るし、やるべきこと(着替えや片付け)は自分でやる」。 この適度な放任が、子どもたちの主体性を刺激します。
印象的だったのは、控えめな女の子が一人で雪玉を転がして雪だるまを作ろうとしていた場面です。最初は自分で黙々と作っていたのですが、雪玉の重さに一人だけでは進めなくなった時、不安そうに周りを見渡していました。少し様子を見ていると、自分から「誰か手伝って」と声を出し、近くの子と一緒に転がし始めたのです。 勇気を出して、自分から周りに助けを頼むという、本人にとっての成長の瞬間が見れました。

あっという間に雪遊びが終了すると、片付けをし、昼食を食べて帰りの準備です。ちなみに自分が使った部屋や寝具は「片付け競争」というコンテストを行い、一番綺麗に片付けられたチームはどこかを競いました。いつもだったら面倒な「作業」も「楽しみ」に変えていました。
帰りのバスでは、多くの子供たちから「まだいたい!」「帰りたくない」という声が上がりました。 わずか1泊2日。しかし、濃厚な「ありのままの時間」は、子どもたちの心に確かな余韻を残していました。
そして、全行程を終え、帰りのバスの中で行われた解散式。 ここでは、子どもたち一人一人に表彰状が手渡されます。
読み上げられる内容は、決して「リーダーシップを発揮した」とか「良い子にしていました」といった、大人の目線での良い評価ではありません。 「雪合戦に本気で取り組んでいた」「雪玉を頑張って転がしていた」のように、「あなたが楽しんでいたその瞬間を、私たちは見ていたよ」というメッセージです。夢中で遊んでいたありのままの自分を肯定された経験は、子どもたちの胸に刻まれたはずです。

参加者の声:家庭に持ち帰った「確かな変化」
今回のスクールに参加した子どもたちの親御さんから、後日いただいた感想の一部をご紹介します。
「普段と違った立場で過ごせたのが新鮮だったようです」── 小学校6年生の男の子と、小学4年生の女の子をもつお母さん
一人親で、車もないし仕事もしているし、2人を新潟に連れて行こうと思ってもなかなか難しい中で、今回貴重な機会をいただきました。お兄ちゃんは自分よりも年上の男の人と過ごす時間が少ないので、今回一緒に中学生の子たちと話せたのが良い経験だったようです。妹も、自分よりも小さい子と宿泊の体験をして、「自分とは違う色々な子がいるんだ」「びっくりした」と素直な感想を話してくれました。普段とは違った立場で2日間過ごせたことは、二人にとって刺激になったようです。
「帰ってきてからの親子のコミュニケーションが変わりました」── 小学校4年生の女の子をもつお母さん
「現在学童保育に通っていて、子どもと学童の先生で遠足に行ったことはありますが、知らない子たちとの宿泊の体験は初めてでした。人見知りが激しく、出発前は『友達できるかな』と不安そうにしていた娘でしたが、帰ってきた時に自分から感想を話してくれました。また、それまであまり娘から私に日常のことを話してくれる場面は少なかったのですが、自分から話してくれるようになりました。初めての体験を乗り越えられたことが、大きな自信になったようです。
「一番下の子に良い体験をさせることができました」── 小学校3年生の男の子をもつお母さん
年の離れた3人兄弟の一番下で、家族旅行となると料金もそれなりにかかるため、あまり旅行にも連れていけていませんでした。今回初めて親元を離れての宿泊体験ができてとても感謝しています。帰ってきてから、「ソリがとても楽しかった」「雪合戦でリーダーをやっつけた」など、とても楽しそうに話してくれました。対等な目線で関わってくれる大人たちがいると気付けたことは、これからの彼にとって大きな財産になると思います。
体験格差の解消が、未来への投資になる
今回の「花まる雪国スクール」を通じて見えてきたのは、非日常の体験がもたらす本質的な価値です。日常で凝り固まった『自分はこういう人間だ』という諦めや枠組みを一度壊し、自分の中の可能性や興味関心に耳を傾け、それを表現できるような環境に身を置くことで、子どもたちが大きく成長することを身をもって痛感しました。
本プログラムの目的は、単に「雪遊びをした」という思い出作りではありません。 日常のしがらみや役割から解放され、心理的安全性の高い環境で、信頼できる大人や仲間と過ごすこと。 その中で、「ありのままの自分」でいても大丈夫なんだ、受け入れてもらえるんだという「自己受容」の感覚を得ること。 これこそが、これからの人生を力強く生きていくための土台になります。
子どもの体験格差解消プロジェクトでは、2023年1月の発足以来、計16回383名の子どもたちに体験機会を提供してきました。
子ども支援NPOをはじめ、様々なプレイヤーが体験機会を届けておりますが、体験の格差が広がり続けてしまっている現状を変えていくには、社会全体で子どもたちを支えていく新たな仕組みづくりが必要です。
だからこそ私たちは、まずは目の前で体験機会が不足しがちな子どもたちに、「信頼できる大人との出会い」や「新しい価値観との出会い」などに繋がる体験を届けていきながら、その活動を大きくしていくことで、より沢山の方々へ体験格差を知っていただき、解消に向けた取組をご一緒していくことを目指しています。
経済状況や家庭環境によらず、すべての子どもたちが「自分らしく生きていくために必要な力」を育める社会の実現に向けて、私たちは活動を続けていきます。
本プログラムに対するクラウドファンディングは2月末までとなっております。より多くの子どもたちに「人生を変えるきっかけ」となる体験機会を届けるためにも、皆様のあたたかいご協力をお願いいたします。